◆申立てを検討する際の参考として、相続財産清算人業務の流れを記載いたします。
(当事務所が行った業務の一例であり、裁判所や裁判官の判断により取り扱いが異なる場合があります)
(1)まず、申立人の資格があるかどうか、一例として。
①被相続人の入所施設 ②相続人ではない親族 ③同居人、内縁関係者 ④金融機関(被相続人の債権者)
⑤後見人だった者 ⑥相続放棄をした元相続人 ⑦特別縁故を主張する者 ⑧住んでいたアパートの所有者 など
(2)法律上の申立権者は?
→利害関係人または検察官(民952条1項)である
「相続財産について法律上の利害関係を有する者」
≪想定される相続財産清算人選任の一例≫
・債権者からの申立て
被相続人所有の家屋の抵当権者が、競売・売却のために申立てをする。
・相続放棄をした親族からの申立て
相続放棄をした(元)相続人が、財産の引継ぎのために申立てをする。
※管理義務が残る不動産や車両等がある場合が多いと思われる。
・特別縁故者からの申立て
内縁関係にあった者、その他の親族や、本人の介護をしていた者が分与を主張するために申立てをする。
(3)管轄は(家事第203条1号)どこに申立てをするの?
相続が開始した地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所
財産管理事務の便宜等のため、移送の裁判を求める場合もある。この場合も、まずは相続開始地にて最初の申立てを行うこととなる。
◆相続財産清算人を選任する要件
(1)相続の開始(被相続人の死亡)
→死亡または失踪宣告がなされること
(2)相続人のあることが明らかでない
→被相続人の戸籍の調査を行った後に「相続人となるものがいない」こと
相続人となっていたものが相続放棄を行った場合や、相続欠格事由がある場合も当たる
(3)「相続財産が存在する」必要がある
→管理人が財産を管理する実益があるか?数万円の現金だけなど、少額すぎる場合は実益がないとされる。
→債務のみの場合も当たる。債務は(負の)財産である
◆申立時の諸問題
(1)このようなケースでは申立てが可能か?
・戸籍上に死亡の記載がなく、生死不明である
→基本的に、生存しているものと扱われる。失踪宣告や不在者財産管理人の選任が必要
・戸籍上、高齢者職権消除の措置が取られている
→この手続きにおける死亡扱いにはならない、あくまで戸籍の便宜上の措置
・戸籍の調査によって“表見相続人”のみがいる
→表見相続人とは、本当は相続人ではない相続人に見える人物です。
例えば、「本人の知らない間に勝手に養子縁組の届け出が出されていた戸籍上の養子」など
条文上は申立て可能ですが、実務上は相続放棄をしてもらう場合が多いかと思います。
・相続人は不存在だが、有効な遺言書があり、全部包括遺贈されている
→包括遺贈を受けた方が業務を行うことができるため、管理人の選任はできません。
(2)つぎの人物は、利害関係人として申立人となるか
・葬儀費用を立て替えた者→△
・相続人がいない隣の家を買いたい、近所に住んでいる者→×
・管理費の滞納がある法人格のないマンション管理組合→〇
・土地を収用したい地方自治体→〇
(最終的には、裁判官の判断となるため、判断に困るケースでは、書記官と事前に打ち合わせをすることが大切である)
◆予納金について
最低限、管理人の報酬を含め30~100万円程度の経費を考慮し、本人の財産の状況と管理の経費の見込みに応じて予納金が決定される。
・現預貯金等の流動資産が多い場合は不要なこともある。
・財産が多い場合でも、換価に時間のかかる不動産や株式のみの場合は予納が必要である。
・家屋の解体が予想されるなど、業務の執行に多額の費用が見込まれる場合は、もっと多くの予納金を求められる場合もある。
(預貯金現金がなく不動産がある場合は、大体100万円が最低ラインではないかと思われる)
◆申立てが認められた場合
・申立人及び相続財産清算人に対して、審判書謄本が郵送される。
なお、審判に対する即時抗告(不服があっての異議申立て)はできない。
・却下審判については、申立人に対して、審判書謄本が郵送され告知される。
却下審判に対しても、即時抗告はできない。
※申立てにおいて、戸籍のかわりに法務局の法定相続情報一覧図を使うことはできない。
→相続人不存在の証明には、使うことができない。従来どおり戸籍一式を提出する。
なお、戸籍の原本還付は可能である。(裁判所で取り扱いが異なる場合もある)